AMD Strix Haloの徹底検証|ユニファイドメモリとGPU性能の実力
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動画編集、1440pクラスのゲーム、ローカルAI推論。この3つを1台のミニPCでまかなおうとすると、これまでは必ずどこかで壁に当たっていました。内蔵GPUではAAA級ゲームの描画が厳しく、大規模なAIモデルを動かすにはメモリも足りません。性能を求めるほど、結局フルタワーのデスクトップに引き戻されてしまいます。
AMD Strix Halo(Ryzen AI Maxシリーズ)は、CPUとGPUを1つのチップにまとめる「APU」という設計を、さらに一歩推し進めた製品です。AI処理を専門にこなすNPUまで同じチップに同居させ、最大128GBのメモリをCPU・GPU・NPUの3つで分け合う「ユニファイドメモリ」構成にしています。グラフィックボードを別に搭載するタイプのPCと張り合えるだけの描画性能を、コンパクトな筐体のまま実現できるのは、この設計のおかげです。
Strix Haloは、AMDが2025年1月のCES 2025で発表したAPUのコードネームで、製品名としてはRyzen AI Maxシリーズにあたります。CPUとGPUを1つのチップにまとめるAPU自体はAMDが得意としてきた設計ですが、Strix Haloが従来と決定的に違うのは、統合するグラフィックスの規模とメモリの持たせ方です。
CPUはZen 5世代を採用し、最上位のRyzen AI Max+ 395は16コア/32スレッド、最大5.1GHzで動作します。一般的なノートPC向けCPUの多くが4〜8コア程度であることを考えると、規模の大きさがわかるはずです。しかもZen 5では、コア数の増加だけでなく、クロックあたりの処理能力自体も前世代から引き上げられています。グラフィックスにはRDNA 3.5世代のRadeonを内蔵し、Radeon 8060Sは演算を担うCUを40基搭載。さらにAI処理を専門に担うNPUが、処理能力を示すTOPSで最大50に達します。
消費電力は45〜120Wの範囲で、ミニPCメーカーが筐体の冷却性能に応じて調整します。同じStrix Haloチップでも、製品によって実際の動作電力が異なるのはこのためです。メモリには最大128GBのLPDDR5Xを搭載し、CPU・グラフィックス・NPUが同じメモリを分け合うユニファイド構成を採っています。1つの大きなメモリをまとめて持たせるこの発想自体は、AppleのMシリーズチップや、PS5のようなゲーム機にも共通する手法です。ただし重なるのは考え方だけではありません。Strix Haloのメモリは基板に直接はんだ付けされており、一般的なPCのようにメモリスティックを挿して後から増設する構造ではありません。
Strix Haloファミリーのうち、ミニPCで主に採用されるのはRyzen AI Max+ 395、Ryzen AI Max 390、Ryzen AI Max 385の3モデルだ。
モデル |
コア/スレッド |
GPU |
CU数 |
cTDP |
NPU |
Ryzen AI Max+ 395 |
16C/32T |
40 |
45-120W |
50 TOPS |
|
Ryzen AI Max 390 |
12C/24T |
Radeon 8050S |
32 |
45-120W |
50 TOPS |
Ryzen AI Max 385 |
8C/16T |
Radeon 8050S |
32 |
45-120W |
50 TOPS |
※スペックはAMDの公式製品ページに基づきます。なお、Strix Haloは発売後も新モデルが追加されており、本記事ではミニPCで主流の3モデルに絞って解説します。
数字だけを見比べると差がわかりにくいかもしれませんが、実際に効いてくるのはコア数とCU数です。385と390はどちらもRadeon 8050S・32CU構成で、GPU部分の基本スペックは同じです。差が出るのはコア数の部分で、390のほうが重い作業に強くなります。395はコア数・CU数ともに最大構成で、性能を最優先するなら選択肢はこのモデルに絞られます。
Proファミリーにはエントリーモデルのryzen AI Max PRO 380(6C/12T、Radeon 8040S、16CU)も含まれますが、企業向け管理機能を追加した別モデルで、一般向けミニPCに採用される例はほとんどありません。
名称が複数あるため整理しておきます。「Strix Halo」はコードネーム。「Ryzen AI Max / Max+」がコンシューマー向け製品ブランド、「PRO」は企業向け管理機能を追加したバリエーションです。検索や製品ページで異なる表記を見かけても、指しているのは同じチップファミリーです。
名前が似ている「Strix Point」はまったく別のシリーズです。Ryzen AI 300シリーズ(Ryzen AI 9 HX 370など)として展開されており、薄型ノートPC向けに設計されています。コア数は最大12、グラフィックスは最大16CUと、ここまで見てきたStrix Haloの数字と比べるとひとまわり小さくなります。メモリの構成にも違いがあり、Strix Pointは一般的なノートPCと同じ128-bit幅のメモリバスにとどまりますが、Strix Haloは256-bit幅のユニファイドメモリを採用しています。データの通り道が倍近くに広がったと考えれば、グラフィックス性能の差にもうなずけるはずです。ノートPCでAMDのRyzen AI 300世代を検討している場合は、Strix Pointシリーズが対象になります。
Strix Haloのユニファイドメモリの構成には、性能に直結する理由があります。
内蔵グラフィックスを持つ通常のCPUやAPUも、メモリを共有する発想自体はすでに採用しています。専用のVRAMを持たない代わりに、システムメモリの一部をグラフィックス用に割り当てる方式です。搭載RAMを64GBや128GBまで増やせば、割り当て自体を大きくすることは技術的には可能です。ただ、そこまでしても意味はほとんどありません。従来の内蔵グラフィックスは処理性能が控えめで、大容量のメモリを渡されても活かしきれず、メモリバスも128-bit・デュアルチャンネルという標準的な構成のままでは帯域も追いつきません。実践する人がほとんどいないのはそのためです。
一方、ディスクリートGPUを積んだPCでは、GPU専用のVRAMがシステムメモリとは完全に切り離されています。GPUが使えるのは自身に搭載された分だけで、エントリー〜ミドルクラスなら8〜12GB、コンシューマー向け最上位のRTX 5090でも32GB程度が上限になります。AI・専門用途向けの業務用カードになると90GB台まで積まれる製品も。ただし価格も桁違いに跳ね上がります。いずれにしても、大きなデータを扱う処理ほど、このVRAM容量の天井に真っ先にぶつかります。
Strix Haloが変えているのは、大容量を割り当てられること自体ではありません。その容量を実際に活かせるだけのGPU性能と帯域を組み合わせた点です。128GBのメモリプールのうち、GPU側には「AMD Variable Graphics Memory」という機能を通じて最大96GBまで割り当て可能。40基のCUと256-bit幅の帯域が、その容量を実際の処理速度に変換します。「割り当てられるだけ」で終わらないのが、従来のAPUとの決定的な違いであり、x86・Windows系のPCではここまでの規模を実現した例がありませんでした。
具体的な数値で見ると、バスは256-bit幅を8000MT/sで動かし、確保する帯域は256GB/s。この帯域があってこそ、40基のCUと96GBのメモリ割り当てが実際の処理速度として活きてきます。
この差が最も効いてくるのが、ローカルで動かすAIモデルです。生成AIモデルは、規模が大きくなるほどメモリ消費量も比例して増えます。8GBや12GBのVRAMでは扱えるモデルの規模に上限があり、大きなモデルは読み込みすらできないケースも出てきます。Strix Haloの96GBというGPU割り当て容量は、普段なら諦めるしかない規模のモデルをローカル環境で扱える可能性を開きます。
動画編集や3Dレンダリングでも恩恵の方向は同じです。高解像度の映像素材や大量のレイヤーを扱っていてVRAM不足によるカクつきを経験したことがある人にとって、この余裕は実用上の意味が大きいはずです。
もっとも、この容量はあとから変更できません。メモリは基板にはんだ付けされており、購入後に増設することは不可能です。128GBモデルを検討している場合、その判断は将来の拡張ではなく、購入時点での見極めが前提になります。
ここまでのスペックは、あくまで机上の数字です。実際の性能を測る指標としては、3DMarkのグラフィックス性能スコアであるTime Spy Graphicsが参考になります。Radeon 8060Sはこのスコアで、ノートPC向けのRTX 4060クラスから約5%落ち込む程度の水準を記録。ミドルレンジのゲーミングノートPCが積む単体GPUに迫る数字であり、内蔵グラフィックスとしては異例の領域に達しています。
| ゲームタイトル | フルHD(1080p) | WQHD(1440p) |
|---|---|---|
| Cyberpunk 2077(Ultra) | 75.6 FPS | 46.4 FPS |
| Baldur's Gate 3(Ultra) | 85.3 FPS | 55.2 FPS |
| Call of Duty: Black Ops 6(Extreme) | 83 FPS | 64 FPS |
| Monster Hunter Wilds(Ultra RT High) | 39.2 FPS | 28.4 FPS |
※Asus ROG Flow Z13(Ryzen AI Max+ 395、Radeon 8060S、LPDDR5X-8000 32GB)を用いた検証記事で計測された実測値に基づきます。
Time Spyのスコアも含め、これらの数値はいずれも同じ検証記事内、Asus ROG Flow Z13(2-in-1タブレット)での測定です。ミニPCでの実際の数値とは、筐体の冷却設計次第で差が出る点は踏まえておく必要があります。それでも傾向は見えてきます。1080pなら大半のAAAタイトルが60fpsを余裕を持って超え、1440pでもタイトルによっては60fps前後に届きます。ただしMonster Hunter Wildsのようにレイトレーシングを高負荷でかけるタイトルは30fps前後まで落ち込み、快適とは言えない水準に。設定を下げるか、レイトレーシングを妥協することで改善は見込めますが、最高設定のまま1440pを求めるなら注意が必要です。
AI処理については、CPU・GPU・NPUが分け合う大容量メモリの構成がそのまま強みになります。NPU単体の処理能力は最大50 TOPS。CPU・GPU・NPUを合算したStrix Halo全体のAI性能は最大126 TOPSに達するとAMDは公表しています。ただし、この126という数字のうちCPUとGPUがそれぞれどれだけ担っているかは公開されておらず、内訳を断定することはできません。
ミニPCでの実運用に近いデータとしては、GMKtec EVO-X2の検証結果が参考になります。瞬間的には140Wまで消費電力が上がりますが、持続負荷では120Wに落ち着き、その状態でも性能が維持されることが確認されています。ファン騒音はアイドル時27dB台、高負荷時47dB台で推移。静音重視のモードでは41dB程度まで下がります。
実際にStrix Halo搭載ミニPCを選ぶ際に確認しておきたいポイントが見えてきます。
性能とコストを踏まえると、Strix Haloには向いている人と向いていない人がはっきり分かれます。
省スペースで妥協したくない方:日中は動画編集やAIモデルを使った作業をこなし、仕事を終えたらそのままAAAタイトルを楽しみたい。フルタワーのデスクトップなら同じことができますが、その分のスペースと配線が必要になります。デスク上の設置面積を抑えながら、性能面でも妥協したくない。そんな方にとって、Strix Haloは現実的な選択肢になります。
最上位モデルであれば可能です。ただしメモリは後から増設できないので、AIやクリエイティブ用途で128GBが目的なら、その構成を明記している製品を選ぶ必要があります。とりあえず動けばいい、という選び方はこの容量に関しては通用しません。
普段のブラウジングやOffice作業では、正直なところ体感できるほどの差は出ません。恩恵が出るとしても、簡単なAIチャットや画像生成をクラウドに頼らずPC上でやるくらいで、本格的なクラウドAIサービスが持つ完成度にはまだ届きません。
現時点ではA9 Megaのみです。GEEKOMのラインナップの中でStrix Haloを積んでいるのはこの一台に限られており、他のStrix Halo搭載機を探すなら別メーカーの製品を検討することになります。